Old Sounds ?

 こんにちは、私、福田慎と申します。 今回ニューオリンズ旅行で苦楽を共にした皆さんが本サイトや福沢さんの "ミシシッピのほとりから"サイトにいろいろと文章を書いているようなので、 負けじと私なりの旅行記を書いてみることにしました。(中林君、場所提供ありがとう。) 皆さんそれぞれすばらしい視点で書いていらっしゃるようで、 とくにニューオリンズで盛り上がってきている新進アーティストへの並々ならぬ探求心には頭が下がります。 ということで新進アーティストへの探求心がまったくない私はそんな新しい波は無視して、 "そんな人、まだ生きてたの?"といった人たちに焦点をあててみることにしました。

デイブ・バーソロミュー

 ファッツ・ドミノサウンドを支え(個人的にはT-ボーン・ウォーカーとスヌークス・イーグリンの バックをつけたことで有名だが)、50年代、60年代のニューオリンズサウンドのそこらじゅうに名前が 出てくるデイブ・バーソロミュー。復活と言っていいのかどうか知りませんが、少なくとも派手な活動は やってなかったはず。"生きて動く姿が生で見られるだけ儲けもん"という気持ちで会場へ。  レイバンテントという一番大きいステージだったんでかなり遠くからしか見えませんでしたが、 ホーン、30人ぐらいいたんじゃないかな?遠くてよく見えませんでしたが。  ライブが始まってみると、ん?結構いいかも!いや、すごくいいかも! そもそもアラン・トゥーサンと並び称されるほどのアレンジの天才、音は基本的に往年の ビッグバンドサウンドでしたが、ファンクっぽいリズムを入れてみたり ニューオリンズR&Bっぽい音をちょっと混ぜたり(というかこの人こそミスターニューオリンズ なんだろうけど)、その混ぜ方が絶妙で、平凡なビッグバンドになりそうでならない。 ボーカルも朗々と歌い上げる姿はまるでサッチモ。バイオグラフィーによると何と79歳!恐ろしい! 歳とってよろよろしながら、それでもバックバンドの温かいサポートに支えられて ほのぼのとしたステージが展開される、という予想は見事にはずれて、かといって70歳過ぎても 音は超攻撃的、ひたすら新しいことへ挑戦し続ける、などということはあるわけなく、 見事なバランス感覚で新しいことへもほどほどに取り組み、50年前からほとんど同じことやってます、 もうすぐ死ぬんだし今さら無理したってしょうがないでしょ、この音楽が一番かっこいいのよ、 と言わんばかりの自信に満ちた完璧なライブでした。

ファッツ・ドミノ

 昔から見たい見たいと思っていましたが、同じ時刻に別のテントでスヌークス・イーグリンが やってたんであっさり裏切って、結局ラスト5分ほどしか見れませんでした。見た人によると相変わらず グランドピアノを押して歩いていたそう。それだけは見たかった、、、、。

デキシー・カップス

デキシー・カップス

 こちらも同じ時刻にワイルドマグノリアスと重なっていたのでちょこっとしか見られませんでした。 実はこの人たち、よく知りません。知っているのは唯一、"アイコ・アイコ"をヒットさせた人たちだという こと。 "アイコ・アイコ"がすごく古い印象があったんでもう70歳ぐらいかと思っていましたが、 実際にはまだ"まだ生きてたの?"世代ではなく、ピンクのホットパンツで歌い踊る姿は、30年後の アイケッツという感じでした。

ボビー・マーチャン

ボビー・マーチャン

 "まだ生きてたの?"度でいくと間違いなくナンバー1でしょう。 "誰それ?"と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ヒューイ・スミス&クラウンズの ヴォーカリストだった人。ヒューイ・スミス&クラウンズでやっていたのが50年代だから40年前。 見たところ、今70歳くらいでしょうか。 もともとヒューイ・スミスバンドの大騒ぎお祭りサウンドに乗っかってのん気に歌っていた人で、 特に歌がすごいわけでもなかったんだけどその伝統(?)は40年後の今もしっかり引き継がれていて、 別に何がすごいというわけでもない、ほのぼの、のんびりで"おじいちゃん、ずっと元気でいてね" というライブでした。ちなみにヒューイ・スミスもまだ生きているらしいので、復活しないかなあ?

トミー・リッジリー

トミー・リッジリー

 最近も結構元気なアルバムを出しているトミー・リッジリー。ライブでは真っ赤なシャツに真っ白な ズボンといういかしたいでたちで登場し、たまにキーボードを弾きながら(この人、キーボード弾くんだ。 知らんかった。)なかなか激しく動き回る。しかしいかんせん、歳のせいか歌に元気がない。 全盛期のような張りのあるハガネのような喉はとても期待できない。かと言ってボビー・マーチャン ほどよぼよぼでもないのでいたわりの気持ちで見てあげられないのが辛いところ。 バックはたいして上手くもなく迫力なし、かと言って下手でもない、中途半端な感じ。 おまけに客の入りも中途半端で、芝生に寝そべって息を抜くにはぴったりのライブでした。

ウィリー・ティー

ウィリー・ティー

 果たしてこの人は現在のニューオリンズでどういう立場にあるんでしょうか? 60歳、70歳になった過去のアーティストがしっかりと評価を受け、そこそこライブで元気な姿を 見せているのに対して、まだそこまで歳をとってないであろうこの人はなんとなく"世捨て人" (捨てられ人?)といった感じでした。ジャズフェスでのライブはなく、ジャズフェス期間中の夜の ライブもただ1回のみ、豪華ジャズメンたちの華やかなセッションライブの後に付け足しのようなライブ。 ソロ、ゲイターズで活躍し、ワイルドマグノリアスのデビューアルバムを仕切った栄光のかけらも ありませんでした。ただしこのライブがある意味、すごかった。メンバーはウィリーのキーボードに サックス、ドラムの3人。ライブは何の紹介もなく静かにスタート。ジャズっぽくいいムードでエレピを 弾いているかと思うと唐突に"プハーッ""ピロローッ"とシンセサイザーの音。あまりの安っぽさに のけぞってしまいました。サックスのソロもなく、ひたすらジャジーなエレピと雰囲気台無しのシンセの 繰り返し。まったくしゃべりもなく、苦虫をかみつぶしたような顔のまま。サービス精神ゼロ。 客は誰も聴いてません。変幻自在のピアノスタイル、常に変化を求める過去の経歴などからかなりの "変人"だろうとは思っていましたが、現実は想像以上。自分の世界を極めすぎて一般社会との接触を失って しまった前衛芸術家にもはや誰もついて来れない、そんな感動的なライブでした。

 その他、"まだ生きてたの?"という趣旨からははずれてしまうけどあまりに大好きなので 書かずにはいられなかった人達。

スヌークス・イーグリン

 ジャズフェスで1回、ミッドシティボーリングレーンというボーリング場の中のライブハウスで2回、 計3回見ました。出来的にはジャズフェスが何故かいまいち、ライブハウスの方はどちらも最高でした。 会場がいい加減で環境が悪ければ悪いほどスヌークス自身リラックスしてやりたい放題できるんで しょうか? この人のギターについてはそこらじゅうで語り尽くされているので今更僕が偉そうに 書くこともないでしょうが、それでもちょっと書かせていただくと、同じギタリストとして驚くのは そのカッティングの鋭さです。40年前のデビュー版(アコースティックギター弾き語り)を聴いても、 他のカントリーブルースマンのような泣きのフレーズは全くなく、ほとんどがカッティング (またはフォーク風ストローク)に徹しています。やってることは意外とシンプルで、"こんなの僕でも できるんじゃない?"と思わせる音使いですが、やってみるとその切れの違いは悲しくなるほどです。 (僕と比べるのも失礼か)ライブを見ていても、一見何でもないカッティングにたまに気を失いそうに なります。 思うに、スヌークスのギターはひたすら自分の歌と一体のもの、もっと言えば中心はあくまで ボーカル、ギターはただの伴奏なんじゃないでしょうか?スヌークスは歌っている途中もひたすら 弾いてます。常に高速カッティングです。しまいにはスローの曲でも高速カッティングだったりします。 B.B.キングのように歌っている間は手が止まっている、ということは絶対にありません。 考えてみると、スヌークスはプロフェッサー、マグノリアス等色んな人のバックで弾いてますが、 やはり自分のアルバムで聴けるギターの鋭さと比べるといまいちです。これも自分の歌がないせい なのでは?自分で歌って、それにあわせてギター弾いて、客を煽ってどんどん勝手に盛り上がって、 もうギターに小業は必要ない、ひたすら切れまくりのカッティングにまたカッティング。 ライブでの自己盛り上がり具合は自分のギターにしびれ自分の声にしびれどんどん増幅されている感じ。 目が見えないせいか、自分の内へ内へ入り込んでいくような盛り上がり方が最高です。

アーマ・トーマス

 そしてもう一人どうしても見たかった人、アーマ・トーマス。こちらも計3回見ましたが 何と言っても自分で経営する、自分のライブのためだけに作ったライブハウス、Lion's Den でのライブが最高でした。何で自分だけのためのライブハウスを作ったのか正しいところは知りませんが、 "たまにライブハウスに呼ばれて歌うだけじゃ嫌、私はとにかく毎日歌っていたいの、歌っていればそれで 幸せなの"と思って作ったんじゃないだろうか?きっとそうだ。 椅子が埋まっていたので通路のあたりの 地べたに座って見ていたら、"そこはアーマの入場の邪魔になるから"と言われてステージの真下、 ステージから50センチのところに座らされてしまった。"変な東洋人の子供たち(実は30歳ですが) が変なとこに座ってるぞ"という視線を背中にひしひしと感じつつもアーマ登場。アーマの魅力は何と 言ってもぞくっとするような低音の深い独特の声。黒人女性ヴォーカリストにしては珍しくあまりシャウト しませんが、そのアーマがあの低音で目の前50センチでシャウトしたときには、本気で全身に鳥肌が 立ちました。この一瞬だけで旅行代金のうち10万円分ぐらいはもととったかな?


 ということで皆さんまだ生きてました。よかったよかった。スヌークス、アーマはまた 日本で見る機会があるかもしれませんが、その他の人はニューオリンズ行かないともう見えないかな?



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